株式会社LIXIL(以下、LIXIL)は、経済産業省サービス産業強化事業費補助金を受け実施されている「認知症になってもやさしいスーパープロジェクト」に参画し、岩手県内を中心にスーパーマーケットを展開する株式会社マイヤのマイヤ仙北店(岩手県盛岡市)において、認知症の方に配慮した男女共用トイレを実現しました。本プロジェクトでは、トイレを認知症の方の地域生活を支える重要なインフラとして位置づけ、安心して外出できる環境づくりを目指しており、今回LIXILはトイレメーカーの知見を生かし、プランニングから携わっています。(設計:有限会社 設計事務所ゴンドラ、監修:日本工業大学建築学科教授 野口祐子)
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日本は世界に先駆けて超高齢社会を迎えており、2025年には65歳以上の約5人に1人、約700万人が認知症になると推測されています。国も、認知症になっても住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる“認知症バリアフリー”の共生社会の実現に向けて、ハード面の環境整備を推進していますが、トイレ利用が困難で外出を控えるケースがあるなど、パブリックトイレの整備も課題の1つです。
日本工業大学、社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団による「認知症高齢者の公共トイレの利用実態に関する調査研究」では、認知症の方が外出時にトイレを利用する際の困りごととして、トイレの場所を見つけること(43%)、水を流すレバーやボタンがわからない(41%)、おむつの処理(28%)などが挙げられました。また、約6割が夫妻や父娘などの異性介助となっており、そのうち、トイレ利用時には周囲の視線が気になる方が約4割いました。
マイヤ仙北店に設置したトイレは、認知症の方が使いやすい設備と、付き添う介助者にとっての利便性向上を目指して設計されています。男女共用の広めトイレとすることで、介助スペース確保はもちろん、異性介助者が周囲の視線を気にすることなく入ることができるメリットが生まれます。さらに、わかりやすい操作ボタンや大人用おむつ捨て、着替え台などを備えており、安心してお使いいただけます。また、トイレ扉の前にベンチのある前室を設置することで、プライバシーを守りながら、認知症の方がはぐれないように見守ることができます。
今後もLIXILは、多様性尊重の観点から、認知症の方をはじめとした誰もが使える“インクルーシブ”なパブリックトイレ空間の普及に取り組んでまいります。
<参考資料>
■「認知症高齢者の公共トイレの利用実態に関する調査研究」概要
調査機関: 日本工業大学、社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団
調査方法: 会員機関誌にアンケート用紙を同封
調査対象: 公益社団法人認知症の人と家族の会 東京都支部及び埼玉県支部会員
総回答数: 236サンプル
調査時期: 2019年1月~2月(東京都支部)、2019年7月~8月(埼玉県支部)
認知症とは:
『認知症とは、一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を言い、それが意識障害のないときにみられる。』
出典:「認知症疾患診療ガイドライン2010」p.1(医学書院/2010年)
認知症というのは、「病名」ではなく、アルツハイマー病など何らかの原因により、認知機能が低下し生活などに支障をきたした「状態」を指します。
・トイレ利用が困難で、外出を控えているケースも
・外出時のトイレ利用での困りごととして、4割以上が「トイレの場所を見つけること」「水の流すボタンやレバーがわからない」と回答
認知症の方に外出時のトイレ利用で困ることについて聞いたところ、4割以上が「トイレの場所を見つけること」と回答。トイレが奥まったところにあることや、誘導のためのピクトサインがわかりづらい、見えづらいことがあるようです。また、次いで多かったのが「水を流すボタンやレバーがわからない」という声。トイレの高機能化によって操作ボタンが増加し、その配置もトイレごとに異なるケースも多いため、どのボタンを押せばいいのか、戸惑ってしまうケースも多くあります。
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・外出時のトイレ利用では、多くの人たちが「多機能トイレ」を利用
外出時に介助者が付き添う際、同性介助では5割、異性介助では7割以上の方が多機能トイレを利用すると回答しました。「二人で一緒に入れる広いトイレ」、特に異性介助の場合は「男女一緒に入れるトイレ」のニーズが高いことがわかりました。
・介助者にとっての困りごととして「周囲の視線」「おむつの処理」
トイレ利用時の家族の付き添いについて聞いたところ、異性介助をしている割合が約6割いました。さらに、異性介助の際「周囲の視線が気になる」と回答した方が約4割いました。「介護中」の札を首から下げ、女性トイレに入る妻を介助するなど、男女別の一般トイレで苦労したり、トラブルを経験した人も少なくないようです。また、外出時につける下着について64%が尿取りパッドやおむつをしており、3割近くの人が「おむつの処理」についても困っていました。
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・一般トイレに入った後、介助者とはぐれてしまうことも
■「認知症になってもやさしいスーパープロジェクト」で実現したトイレについて
・認知症の方と介助者が一緒に入れる、男女共用の広めトイレ
男女共用のサインを入口に設置しており、異性介助者も気にすることなく入ることができます。またサインは背景とコントラストをつけて視認性をアップさせています。
さらに、介助者がおむつ交換や着脱衣をしやすいように、便器前のスペースを広めに確保しています。
・認知症の方のトイレ利用のニーズに合わせた設備
認識しやすい文字と大きい丸型形状の押しやすい操作ボタン、使用済みおむつを捨てるおむつ捨て、トイレが間に合わず衣服や下着が濡れてしまったときのための着替えスペース、認知症の方と介助者がそれぞれ用を足している際に、お互いが座るための椅子などを完備しています。
また、立ち座りの動作サポートや転倒防止のための手すりには、壁面とコントラストつけることで視認性をアップしています。
・トイレ扉の前にベンチのある前室を設置
■有識者コメント
野口 祐子 教授
2025年には、高齢者の約5人に1人が認知症になるといわれ、認知症の方の利用を考えずにまちづくり、ものづくりを行なうことが難しい時代をむかえています。今回の調査では、男女別トイレを利用したあとに同伴者と離ればなれになった、水を流すつもりが非常呼出しボタンを押して警備員が駆けつけてきた、バレーボールほどの大きさの使用済みオムツを持ち帰るのは困難だった、出先で急遽オムツを購入したが、大きなパッケージを持ち帰るのは大変だったなど、さまざまな困りごとが明らかになりました。認知症になってもそれまでと変らず外出するためには、安心して利用できるパブリックトイレが欠かせません。こうした問題提起には、社会的にも大きな反響がありました。今後は、株式会社LIXILと一緒に、認知症の方だけでなく、多様な方が快適に利用できるパブリックトイレを具体的に提案していきたいと思っています。