発電しながら日射をコントロールし、断熱性を向上することで、快適なオフィス空間を実現
株式会社LIXIL(以下 LIXIL)は、既築ビルにおける脱炭素化への貢献とBCPに寄与する「太陽光発電(PV)ロールスクリーンシステム」を開発し、この度当社オフィスビルにて実証実験を開始しています。
LIXILは、環境ビジョン「Zero Carbon and Circular Living(CO2ゼロと循環型の暮らし)」を掲げ、2050年までに事業プロセスと製品・サービスによるCO₂排出量を実質ゼロにすることを目指した取り組みを強化しています。
オフィスビルや住宅などの建築物が密集している東京では、CO₂排出量全体の70%以上が建造物から排出*¹されています。したがって、脱炭素社会を実現するためには、新築だけでなく既築ビルでもグリーン化を推進することが急務であるといえます。
LIXILは、かねてより脱炭素に貢献できる技術の一つとして、新築ビルの壁面に設置する太陽光発電設備(以下BIPV)*²を提供してきました。一方で、脱炭素化を進める上で特に重要とされている既築ビルに関しては、施工性や電気的エラー発生に伴うメンテナンスの問題など*³BIPV特有の課題があり、BIPVの導入は容易ではありませんでした。そこで、LIXILでは既築ビルの窓まわりへ屋内から後付けで容易に設置できる太陽光発電ブラインド(以下 PVブラインド:図3、4)を開発し*⁴、当社オフィスビルにて実証評価を行いました。この結果をもとに技術を進化させ、多様な価値を付与した「PVロールスクリーンシステム」を新たに考案しました。
「PVロールスクリーンシステム」は、発電や蓄電機能及び電力取出機能(USB-A, C)などを兼ね備えているほか、施工性やメンテナンス性、視界の自由度(図3、4)とプライバシーへの配慮の両立、デザイン性にもこだわっています。また、夏場は独自構造採用により、日差しを完全に遮ることで眩しさや暑さを軽減し、冬場は断熱性などの熱的性能の向上を付与することで窓まわり全体の価値向上を実現しました。
LIXILは、「PVロールスクリーンシステム」の開発を加速させることを目指して、2020年度にはNEDO*⁵事業において「デザイン性を考慮した後付け可能な新築・既築向けBIPVシステム」*⁶として採択されました。そして、NEDO事業の枠組みにおける実証品開発フェーズは完了し、現在は実証実験フェーズへと移行して検討を進めています(図1、2)。実証面積は約178㎡、総数99枚のPVロールスクリーンは、紫、青、緑、黄(金)、茶、銀、薄銀および白の計8色(図5)を用意し、既存の窓部に後付設置しています。
図2実証実験の様子(屋内側から)
世界中で気候変動対策が喫緊の課題とされる中で、LIXILでは環境ビジョンの実現に向けた3つの領域のひとつを“気候変動対策を通じた緩和と適応”とし、住まいの断熱性能を向上する製品や、給湯エネルギーを削減する水まわり製品など、社会全体の環境負荷を低減するイノベーションを追求してきました。その中でも、「PVロールスクリーンシステム」は、「省エネ」に加え、「創エネ」および「蓄エネ」の技術を有する革新的なイノベーションであり、実用化が進むことで既築ビルの高性能化を推進し、脱炭素社会へ貢献することを目指しています。
(写真左)図3 PVブラインド実証実験の様子
(写真中央)図4 視環境比較 左: 従来型BIPV(固定)、右:PVブラインド(開閉自由)
(写真右)図5:豊富な色調を実現
「PVロールスクリーンシステムにおける成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業において得られたものです。」
*¹ 公益財団法人 東京都環境公社「環境先進都市・東京に向けて」(2021年11月)
*² 太陽光発電には、主に「BIPV(Building Integrated Photovoltaics):建材一体型太陽光発電設備」と「BAPV(Building Attached or Applied Photovoltaics):添付型太陽光発電設備」の2種類がありますが、本リリースでは総称としてBIPVと表現しています。
*³ 石井久史、“BIPVモジュールおよびシステムの国際標準化に向けた建築的技術的課題”、GBRC、日本建築総合試験所技術報告176(Vol.44,No.2)https://www.gbrc.or.jp/assets/documents/gbrc/GBRC176_850.pdf、2019年4月
*⁴ 石井久史、“BLIND TYPE BIPVの研究開発”、2017年度 日本建築学会大会(北陸)学術講演梗概集、日本建築学会、2017年9月
*⁵ 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
*⁶ 助成事業の名称:太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発/壁面設置太陽光発電システム技術開発/デザイン性を考慮した後付け可能な新築・既築向けBIPVシステムの実証
<参考資料>
■「PVロールスクリーンシステム」の機能と特長
①従来のロールスクリーンと同様の機能性と施工性
太陽光発電モジュールを従来ロールスクリーン同様に巻き取ることで視界の自由度が確保でき、改修によるファサードの形状変更も生じず、従来のファサードデザインを維持できます。また、屋内側から従来ロールスクリーン同様に容易に後付け可能で電気工事も不要なことから、施工やメンテナンスによる制約が少なくなり、工期やメンテナンス期間を短縮できます。さらに、発電しながら眩しさや暑さを遮り、室温の上昇を抑える日射遮蔽性やプライバシー保護機能なども従来のロールスクリーン同様に備えています。
視環境比較 左:従来のBIPV(固定)右:PVロールスクリーン(開閉可) | 屋内側からの取付のため、施工やメンテナンスが容易 電気工事も不要 |
② ロールスクリーンの受光面側にフレキシブルPVセルを配置することで電力を創出し、同時に屋内側への熱の流入を抑制
屋内側に設置したロールスクリーンの受光面にフレキシブルなPVセルを配置することで、電力を創出する装置となります。本来、ロールスクリーン受光面で吸収された光は、屋内側に熱として再放射されますが、PVロールスクリーンでは、その一部を電力に変換します。そのため、従来のロールスクリーン(同じ素材、構成、厚さ、色の場合)に比べ、発電することで屋内側に入り込む熱を抑制します*⁷*⁸。また、ガラスとPVロールスクリーンにより簡易ダブルスキン化*⁹が図れるので、窓まわりの熱負荷を低減でき、脱炭素にも貢献します。
PVロールスクリーンの基本構成 | 発電により再放射による屋内側への熱流入を抑制 |
③ 端部密閉レールを有することで日射熱取得率*¹⁰*⁷や断熱性能を向上*⁸
PVロールスクリーンの左右両端を端部密閉レールでガイドすることで簡易ダブルスキン化*⁹を図り、フレームとロールスクリーンの隙間を最小化して光や熱の透過・移動を抑え、隙間からの眩しさや熱的性能の向上に寄与します。また、空調設備による吹き出し口からの気流に対しても揺らぎにくい構造となっています。
④ USBポートから電力の取り出しが可能
発電した電力をカバーフレーム内に内蔵した蓄電池へ充電し、カバーフレーム部に設けられたUSB-A、-Cから自由に電力を取り出すことができます。この機能を搭載することで、普段使いはもちろんのこと、災害時のように、いざという時にも役立ち、BCPに寄与できます。
⑤ ワイヤレスで遠隔操作が可能
PVロールスクリーンの発電や蓄電および開閉状態は、Wi-Fiを介してクラウドでデータを管理制御しているため、PCなどの端末から状況を確認できます(実証実験モデルの場合)。また、PVロールスクリーンの開閉操作は、従来リモコン操作に加え、PCなどの端末上でも開閉操作が可能となり、より便利な窓周り環境を実現します(実証実験モデルの場合)。
■発電性能について
発電性能*⁴*¹¹は、既築ビルの窓ガラスに多用されている単板ガラス越しを想定した出力測定で54.5W(1.22㎡のロールスクリーン中、PVセル部面積0.84㎡当りの結果)、平方メートル換算で64.8W/㎡の能力があり、ガラス無しで測定した結果と比較しても90.7%発電性能が維持されています(透明単板ガラス3㎜使用の場合)。また、実証用PVロールスクリーン(標準色)の出力は80.9W*¹²となります。
■熱的性能について
開発した「PVロールスクリーンシステム」は、発電することで近赤外線領域のエネルギーを光電変換し*⁷、夏季における課題の日射熱取得率を従来の窓+ロールスクリーン(同素材同色のものを採用した場合)と比べ19.1%向上させる*⁸ことができます。一方、冬季における課題であった断熱性も従来の窓(20年以上前の既築ビルでは、単板ガラスが多数採用)と比較して44.1%向上*⁸させることが可能となります。
*⁷ Hisashi ISHII,“Evaluation of Thermal Properties for BIPV in Facade,” EU PVSEC 2017 Amsterdam, Netherlands Sep.2017
*⁸ 石井久史、“デザイン性を考慮した多機能PV ロールスクリーンの研究開発 IV特性 断熱性能および日射熱取得率の測定結果” 2021年度 日本建築学会大会(東海)学術講演梗概集、2021年9月
*⁹ 石井久史、“ガラスファサードの形態と構成について”、GBRC、日本建築総合試験所技術報告143(Vol.36,No.1)https://www.gbrc.or.jp/assets/documents/gbrc/GBRC143_719.pdf、 2011年1月
*¹⁰ 日射熱取得率(g値)とは、窓に入射した日射量に対する透過した日射量の割合で、g値が小さいほど日射の侵入を防ぎ遮熱性能が高いとされます。
※¹¹ 屋内設置型PVの出力特性は、現状国際規格が無いため、独自に考案した測定方法として、IEC 61215-2 規格に準じてClass AAA の人工太陽光により1sun,RT25℃の環境(STC)下でガラス越しに配置した試験体に照射し、測定しています。
*¹² 実証実験用のPVロールスクリーン(標準色)において、前面ガラス無しによる出力測定結果は80.9W(1.8㎡のロールスクリーン中、PVセル部面積1.26㎡当りの結果)となります。