LIXILに入社したきっかけを教えてください。
日本語を学び、日本へ留学し、都市デザインを専攻にしたことが、この業界に興味を持ち、そしてLIXILに入社したきっかけです。都市計画とは、何か新しいものや、単に煌びやかなものを創ることではありません。都市計画では人びとが暮らし、訪れる場所を創ることであり、人や周りのものとの関わり合いを考える必要があります。自分が創るものが人びとにとってよいコミュニティと言えるのか、よい体験を生み出すことができるのかを常に考えます。
大学で師事した教授は、卓越したグローバルマインドセットを持ち、主導するプロジェクトは数々の賞を受賞しており、私に非常に大きな影響を与えてくれました。私たちは商業施設に関するプロジェクトを手掛けることもありました。プロジェクトを始める時はいきなり建物の形を考え始めるのではなく、その土地の歴史、人びとやコミュニティから調査を始め、その場所をどのように使うだろうかということに思いを巡らせます。それらを経て初めて、その場所のデザインについて考えるようにしていました。
大学院の卒業を前に、建築や住宅設備・建材のいずれかに関連し、私の持つ中国のバックグラウンド、日本語、英語力を生かせるグローバルな仕事を探しました。そうして出会ったのがLIXILで、2014年に入社しました。
大学院を卒業した直後のLIXILでの経験を教えてください。
製品エンジニアになる前は、製品開発においてはCAD図面での機能的なデザインが重要なのだろうと考えていました。品質を追求するためには、多くの細かい作業があることを知らなかったのです。しかし実際は、製品の一部のほんの僅かな変更であっても、すべてを検査し直します。その後、他の潜在的なリスクについてもう一度考え、そのリスクを検査するための新しいプロトコルを設計するのです。高品質の製品をお客さまに届けるために、私たちはあらゆる手を尽くしています。こうした経験から、私はLIXILの製品品質に大きな自信を持っています。
しばらくして他の選択肢を考え始め、当時新設されたばかりの製品企画開発(NPD)チームのプロダクトマネージャーに配置転換しました。
新しい役職はどのようなものでしたか?
重圧も大きく、初めは非常に大変でしたが、私にはとても合っていたと思います。プロダクトマネージャーは、マーケットと製品カテゴリーの深い理解が必要な職種です。各製品機能の要点を理解し、説明できなければなりません。様々な人びとと一緒に働くため、チームによって異なるKPIや多様な考え方に対応することも求められます。チーム内外に存在するギャップを埋め、チームをまとめ、顧客に焦点を当てます。そうして、製品を世に送り出すのです。
そのプロセスはどのようなものですか?
LIXILでは、製品が発売されるまでのステージゲートプロセスを導入しています。製品が発売に至るには4つのゲートをクリアしなければならず、数年にわたることもあります。一人でそれを行うことは不可能なので、チームの連携が重要になります。
プロダクトマネージャーとして、全体を見渡し、すべてのプロセスにおいてチームを連携させる必要がありますが、製品開発において、最も重要なのは最初の段階です。ここでは、製品の価値提案を定義し、異なるマーケットにおける研究開発、設計、財務、販売など、様々なステークホルダーとの調整を行います。
すべてのプロセスにおいて、プロジェクトチーム内の調整をし、多様な知見やマインドセット、観点、優先順位を持つ人びととコミュニケーションを取る必要があります。ステークホルダーが多いほど、より多くのフィードバックがあり、問題が存在します。それらすべてを適切に対処し、学んでいかなければなりません。プロダクトマネージャーであったとしても、複数の部門から構成されるチームのメンバーにとっては直属の同僚ではないため、メンバーとの信頼を築く努力をしなければなりません。
それらのプロセスをどのように乗り越えていきましたか?
多くの時間と努力を要して、一歩ずつ進めていきました。何よりも大切なのが、自信を持つこと。そうすれば、皆さんがついてきてくれます。また、強いメッセージや効果的なビジュアルを含めつつ、簡潔に伝えることも大切です。製品開発の当初から同僚を巻き込むことによって、なぜこの製品が必要なのかを理解してもらうことができます。製品の詳細なパフォーマンスや競合分析、明確な価値提案など、製品を創り上げる上で必要なすべてを共有します。そうすれば、経過について話をしたときに瞬時に状況を理解してもらうことができるのです。あとは、プランを実行に移します。
しかしこの段階においても、議論は尽きません。時には、「そんなことはできない」や「他の優先すべきことがある」という人がいるかもしれません。その場合は、自身のアイデアを追求するか、他の道を探す必要があります。すべてのアイデアがプロジェクトになるわけではなく、また、すべてのプロジェクトが最後のステージに到達するとは限りません。自分が築き上げてきたものに対して忍耐強く、粘り強く取り組む必要があるのです。そして同時に、柔軟性が求められます。大局的な考え方を持ちつつ、様々な視点を理解するために細部を捉えることも重要です。
自身が周りに認められたと感じる瞬間はありますか?
肯定的なフィードバックをもらったときです。例えば、「良いアイデアだね、この方向で具体的に考えてみよう。さらなる分析をしてほしい」や、「それについて考える時間がほしい。検討して、また連絡します」と言われると嬉しく思います。
それでも、これですべてがうまくいったわけではありません。 肯定的な意見をもらえても、まだまだ試行錯誤が必要ですし、予期せぬ問題が発生することもあります。修正があって当たり前なのです。この役職に就いた当初は、各ゲートで行われる会議が非常に怖かったことを覚えています。予期していない質問をされたときの緊張感や、的を射たネガティブなフィードバックもあるでしょう。そういったものに出会うと、「ああ、そこまで考えてなかったな。もっと頑張らないと」と思うこともありました。しかし、慣れてしまえば何てことはないのです。むしろ、「なるほど、良い指摘だな。新しい学びを得ることができた。それらを考慮して、さらに実験してみよう」と思えます。実際のところ、ネガティブなフィードバックから学べることは多くありました。
フィードバックを課題としてではなく、成功へのヒントとして捉えるようになったのですね。
その通りです。難しい質問やネガティブなフィードバックを恐れなくなると、プロジェクトは良い方向へ進んでいきます。最初のうちは、それらを個人攻撃のように感じてしまうかもしれません。しかし、すべてはプロジェクトをより良くするためのものなのです。決して仕事をうまくやっていないわけではないですし、また、自身が批判されているわけではありません。すべて、顧客に新しい価値を届けるために必要なものなのです。大切なのは、新しいアイデアや方法を試してみること。こうしたマインドセットに変化したとき、自分で”物事がついに動き出した”と感じた瞬間でもありました。
現在、最も注目しているものは何ですか?
間もなく発売される製品のプロジェクトです。あまり多くはお伝えできないのですが、その製品がターゲットとする年齢層は非常に興味深いと思います。アイデアの方向性と優れたデザイン、そしてプロジェクトチーム全員の総力を結集すれば、きっと成功できると信じています。人びとの豊かな暮らしに貢献する製品を世界に届けられると思うと、とてもわくわくしています。そして、それは私たちの事業にも貢献してくれることでしょう。
他には、DuoSTiX Hand ShowerとDuoSTiX Hygiene Sprayという製品にも携わっています。DuoSTiXシリーズには、ハンドシャワーと衛生スプレーがあります。これらの製品は、シャワーヘッド部分のキャップを着脱することで、一つの製品で二つの機能を使い分けることができます。肌当たり良い水流で身体を洗い、ジェットスプレーで浴室の掃除をすることができるのです。
私がプロジェクトに参加した時点では、その製品は既に開発された段階にありました。ここでの私の役割は、ブランディングチームとプロダクトトレーニングチームの製品理解をサポートし、販売を成功に導くことです。
製品の魅力を効果的に顧客に伝えられるように、各国のプロダクトマネージャーと緊密に連携し、共にGTM(Go to Market)戦略を管理しています。このプロジェクトでの最初の仕事は製品サンプルをテストし、衛生スプレーユーザーの目線でFABフレームワークを適用することでした。FABフレームワークとは、製品の特徴、利点、およびメリットを理解し、効果的に伝えるための手法を指します。そして研究開発の段階では、マーケットからの潜在的な質問にすべて答えられるように準備しておきます。さらに、マーケットで製品を売るために説得力のある製品ブリーフィング資料を作成することも私の仕事です。
プロダクトマーケティングの仕事は非常に楽しいです。製品をアイデアから発売まで実現させることができたときには、とてつもない達成感を得ることができます。しかし、それは一筋縄ではいかない、長い道のりでもあります。
将来の見通しを教えてください。
プロダクトマネージメントという仕事は非常に私に合っており、現在の役職や役割をさらに発展させていきたいと考えています。現在はAPAC地域でより多くの経験を積むことに注力していますが、将来的には、その範囲をさらにグローバルに広げたいと思います。そのためには、様々なマーケットで多様なニーズを探り、理解しなければなりません。暮らしに必要な製品をもっと世界にお届けしたいです。そして願わくは、同様の職種でさらに上のポジションも目指したいと思っています。
2022年インタビュー時点