職場トイレの快適性が、仕事の満足度ひいてはウェルビーイングにつながることを示唆
株式会社LIXIL(以下、LIXIL)では、快適なパブリックトイレ空間をつくりあげるために、トイレ空間の研究や空間設計のサポートを行っています。そしてこの度、ウェルビーイングについて知見の高い横浜市立大学と共同で「ウェルビーイングと職場のトイレ環境の関係」に関するウェブ調査を実施しました。本調査では、変量効果モデル(グループ間の差を明らかにする手法の一つ)を用いて、職場のトイレの満足度が働く人の「生活全体の満足度(Subjective Well-being: SWB)」に与える影響を定量的に分析しました。
「ウェルビーイングと職場のトイレ環境の関係」調査結果概要 ・職場のトイレの満足度が仕事の満足度に有意な影響を与え、さらにその仕事の満足度が生活全体の満足度(SWB)に寄与することが明らかになりました。 ・「トイレ環境」の満足度は、「空間のゆとり」「臭いの低減」は男女共に重視し、その他にも男性は機能性や視覚的の快適性、女性は細かな配慮と快適性が求められることが明らかになりました。 |
・トイレの満足度が仕事の満足度に影響を与え、さらにその仕事の満足度が生活全体の満足度(SWB)に寄与することが判明した。
・この「トイレの満足度 → 仕事の満足度」の影響度は、男女で統計的に差がなく、トイレに対する満足感が形成されれば、性別によらずその後の仕事への好影響を与えることがわかった。

■トイレ満足度の鍵は「男女で異なる構造的ニーズ」への対応
・トイレの満足度に影響を与える要素を調査したところ、男性は「嫌なにおいがしない」が1位となり、次に「空間のゆとり」を重視し、女性は「清潔さ」、「空間のゆとり」を重視している。
・男女に共通する「空間のゆとり」「臭いの低減」は満足度の高いトイレの基本要件としつつも、男性に対しては、「洗面台の広さ」「明るさ」などの機能性・視覚的快適性を強化することが重要。また、女性に対しては、「手荷物スペース」「コート・上着をかける場所」「室温」などの細やかな配慮と快適性を提供することが満足度へ影響する。

■総括
本調査では、職場のトイレが単なる設備ではなく、働く人のメンタルヘルスとエンゲージメント(仕事の満足度)に影響を与え、最終的に個人の幸福感にまで波及するという、その重要性をデータで示唆することができました。
特に、男女で満足度の構成要素が異なるという事実は、今後の職場環境改善において、「全社員一律の改善」から、「ジェンダーに配慮したきめ細やかな設備投資」へと方針を転換する必要があると考えられます。
【調査概要】
・調査主体:株式会社LIXIL、横浜市立大学
・調査時期:2025年8月8日~8月10日
・調査対象:職場に通勤している20歳以上の方
・有効回答数:1957人(男性956人、女性1001人)
・解析手法:変量効果モデル
■研究者コメント
横浜市立大学データサイエンス学部
上田雅夫 教授
本調査では、職場のトイレの満足感が仕事の満足感に影響を与え、その結果、生活全体の満足感にも影響を与えるという仮説のもとに行いました。調査から得られたデータを統計モデルで分析した結果、想定した仮説通りの結果が得られました。仕事の満足感には様々な要因がありますが、職場のトイレという、改善することが可能なものが人々の仕事の満足感、ひいては、生活の満足感に影響を与えることを示したことで、人々の幸せの向上に対し、一つの対応方法を示すことができました。ただし、トイレの満足感に影響する要因は、男女で全て共通ではなく、一致するものもあれば異なるものもありました。このことは、トイレを利用する目的、ニーズが男女間で異なることを考えれば自然なことと思われ、このニーズをどのように反映し、実現するかが次の課題になるでしょう。
横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター
西井正造 助教
今回の調査で、職場のトイレという一見ささやかな空間が、働く人の生活の満足感にまでつながる可能性を示すことができました。トイレは単なる設備ではなく、心と体を整える身近な「小さな居場所」としての役割を持っています。人は、安心して過ごせる環境に身を置くことで、自然と前向きな気持ちになり、仕事や日常の充実にもつながっていく
——今回の結果は、そのことをデータで示したものだと感じています。男女で異なる満足度の要因が見られた点も、人それぞれの感じ方や使い方に寄り添った環境設計の大切さを示していると思います。私は普段、幸福と健康の双方を高める因子(イネーブリングファクター)の研究をしています。今回の調査から適切に設えられたトイレは有効なイネーブリングファクターとなる可能性を秘めていると感じることができました。