タイルの色や形がつくり出す、多様な世界 設計とアーティストの想いを色に込めたHareza池袋の“Tile art wall”
LIXILやきもの技術は、クリエーターの創造力に呼応し進化し続ける
水まわり・タイル国内事業が100周年を迎える株式会社LIXIL(以下LIXIL)は、当社のやきもの技術を活かした施工事例紹介の第三弾として、クリエーターとコラボレーションしたHareza池袋の事例を紹介します。INAXの前身の一つとなる伊奈製陶の創業期から現在に至るまで、建築家やアーティストとともに、都市や街並みに彩りを与える革新的なやきものづくりに挑戦しています。
今回は、タイルの色や形、表情をテーマに事例とともに振り返ります。
■クリエーターとのコラボレーションの歴史
LIXILの水まわり・タイル国内事業は今年で100周年を迎えました。日本の近代化の過渡期において、六古窯の街として知られる愛知県常滑で、創業家の伊奈初之烝・長太郎親子は土・水・火と向き合い、日本のやきもの産業発展の立役者として重要な役割を果たしました。伊奈親子は、帝国ホテル直営工場「帝国ホテル煉瓦製作所」の技術顧問として迎え入れられ、アメリカの建築家フランク・ロイド・ライトの代表作の一つとして知られる帝国ホテル 二代目本館 通称「ライト館」の装飾に富んだ煉瓦やテラコッタを製作。そして、その竣工とともに、役割を終えた「帝国ホテル煉瓦製作所」の設備と職人を、匿名組合伊奈製陶所に引き継ぎ、1924年に株式会社化しました。戦後は、モダニズム建築が主流となり、工業製品として大量生産された均一で寸法精度に優れた外装タイルが求められました。高度経済成長にかけて、コンクリート壁の表面を保護するというタイル本来の機能に、面状の工夫や施釉技術で美的価値を付加した公共建築やパブリックアートが次々に建設され、タイルが街を彩るようになりました。
1952(昭和 27)年、油彩の画家として知られる岡本太郎氏が常滑に訪れ、工業製品の色鮮やかな施釉のモザイクタイル(10mm角の小さなタイル)を使った壁画《太陽の神話》を、伊奈製陶とともに製作しました。さらに、東京・日本橋の髙島屋の地下通路にモザイクタイルの巨大な壁画《創生》、髙島屋大阪店の大食堂に飾られた《ダンス》などを製作し、日本の「誰もが日常で見られる芸術作品=パブリックアート」の先駆けの一つとなりました。
壁画《太陽の神話》 |
出展:昭和27年 アートモザイックタイル |
また、都市開発が進む1970年前後には、陶壁の作品で知られる異色の陶芸家・會田雄亮(あいだゆうすけ)氏とコラボレーションし、旧大阪伊奈製陶ビルや各地の公共施設、神戸ポートアイランド《陶と水のモニュメント》など多くの作品を製作しました。會田氏の陶芸技術と陶磁器工業技術、伝統と現代技術の融合が新たな可能性を探る時代となり、外装タイルの意匠表現の礎となりました。
■設計とアーティストの想いを色に込めた、鮮やかな“Tile art wall”
LIXILはこうして培ってきたやきもの技術を継承し、多くのクリエイター・アーティストとのコラボレーションによる創作活動を通じて、革新的なものづくりに挑戦しています。その1つである、豊島区が掲げる「アート・カルチャー都市構想」を牽引するものとして2020年にグランドオープンした「Hareza池袋」では、芸術家の岡﨑乾二郎氏デザインによる、タイルのやきものらしい艶と色鮮やかな“ Tile art wall ”、アーバンスクリーン「ミルチス・マヂョル/Mirsys Majol/Planetary Commune」を製作しました。
このアーバンスクリーンは、「Hareza池袋」の3つの建物をつなぎ回遊性を持たせ、人々のアクティビティを浮き立たせる屏風のような役割を担っています。タイルとガラスを使い分け、色とりどりで鮮やかなデザインとなっています。
タイル製作時は、デザインをした岡﨑乾二郎氏の色彩感覚を満足させるビビットな色を、タイルで表現することが大きな課題となっていました。特にやきものにとってとても難しい色である”赤色”については、焼成方法を酸化焼成から還元焼成に切り替え、銅を含んだ釉薬を還元焼成し赤く発色させる辰砂釉に挑戦するなど、試行錯誤を繰り返しました。
釉薬の光沢具合に変化をつけたり、ガラス面にヒビ状の意匠をいれた貫入表現や、釉薬を使わない素地の色を出したものなど、最終的には、57色、30㎜~300㎜の計466形状の様々なタイルを製作。色やサイズ、厚みの異なる多種類のタイルを用い、壁面に凹凸を出すことで影や変化が生まれ、見る時間帯によって違った表情になっています。
このようにタイルは、釉薬、成形方法、焼成方法や焼成温度によって、多様な色や表情を作り出します。LIXILは100年以上にわたって培ってきたやきもの技術をベースに、設計やアーティストが創造する世界観をともに試行錯誤を繰り返すことで、LIXILやきもの技術は、クリエーターの創造力に呼応し進化し続けています。
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<その他の事例紹介>
▼タイルの色が印象的に使用されている事例
・三菱UFJ銀行 名古屋ビル(竣工:2021年)※詳細はこちら
本ビルは、三菱UFJ銀行の中部地区の新たな拠点として、従業員の働き方改革と街のにぎわいへの貢献を目指したオフィスビルです。愛知県の産業をモチーフにしたいとの相談があり、設計担当者さまに見学いただいたINAXライブミュージアム内「窯のある広場」にある窯の飴色をヒントに、外壁のテラコッタ陶板を製作しました。このテラコッタ陶板は、乾燥時の釉薬の流れを利用して自然な色ムラと飴色を表現しています。エッジやガラス質の模様の発色・光沢も工夫を凝らしているほか、形状については波のようなイメージを持たせ、縦目地を目立たせなくするため、瓦のように隣接するテラコッタ陶板が重なり合う形状にしています。またエントランスには、ガラスブロックとレンガを積み上げたスクリーン壁を採用し、内壁にはレンガに似た斑点を施したタイルを使用しています。
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・箱根小涌園 天悠(竣工:2017年) ※詳細はこちら
箱根小涌園の再開発事業として、全ての客室に温泉の露天風呂を備えた五感が癒される箱根の湯宿に生まれ変わった「箱根小涌園 天悠」。
深く長く延びる庇で和のイメージを、温泉腐食に配慮した信楽焼の特注タイルを用いて和の品格を表現しています。特にエントランス部については、和を演出するために竹林をイメージしたタイルを使用。山々の背景の中で美しく見える色を探すため、赤系・茶系・緑系などさまざまな色を試作しながら絞り込みを行いました。大自然の景観に調和するよう、経年変化を感じる竹を、特注タイルをランダムに構成することで表現しています。
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・プレミアホテル門司港(旧門司港ホテル) (竣工:1998年)
門司は、九州の最北端に位置し、明治から昭和初期にかけて、九州の鉄道の起点として、また、大陸貿易の拠点として産業、経済、文化の発展した街です。LIXILは、プレミアホテル門司港(旧門司港ホテル)のクラブラウンジの内装タイル材の制作に協力しました。歴史的なタイルで「いかに現代の空間をつくるか」という建築家のご要望にお応えし、単色のタイルが採用されています。単色でありながらも、タイルの特長を活かし、かつ現代的な雰囲気を出すために、タイルの張りパターン・目地幅などが工夫されています。クラシックと新しさを併せ持つ門司港独特の雰囲気が感じられる空間に仕上がっています。
(写真)プレミアホテル門司港 (旧門司港ホテル)のクラブラウンジ |
■プロユーザーさま向け施設・ツールなどのご紹介
・ご案内:LIXILタイル100周年イベント「SEEDS -多彩なアイデアが芽生える場所-」
LIXILタイル100周年を記念し、東京・大阪・名古屋でプロユーザーさま向けの展示会「SEEDS -多彩なアイデアが芽生える場所-」を開催しています※。2025年春の発売予定商品や特別注文品や工場における試作品をご覧いただけるほか、タイル事業における環境へのています取り組みをご紹介する予定ですので、ぜひお越しください。
詳細はこちら ※東京・大阪会場はすでに終了しております。
【名古屋会場】
日時:2024年11月13日(水)~15日(金) 11:00~19:00
※ 最終受付は終了の1時間前となります。
場所:愛知県名古屋市中村区平池町4丁目60-12
グローバルゲート 1階 アトリウム
<東京会場の様子>
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・INAXタイルコンサルティングルーム
プロフェッショナルなお客さま向けに、標準品タイルやINAXタイルのやきもの技術を駆使した特注品タイルのサンプルを実際に手に取ってご覧いただける「タイルコンサルティングルーム」を設けております。本レターで紹介の事例も一部展示しています。
皆さまからの特注品タイルに関するご相談やご要望について、INAXタイルの熟練した技術を活かしたカスタマイズのご提案を、コンサルティングを通じて個別に承ります。
https://www.biz-lixil.com/tile_consultingroom/
・設計者・デザイナーのための次世代タイル研究所「DESIGNER’s TILE LAB」
「DTL -DESIGNER’s TILE LAB-」は、タイルが持つ可能性を伝えながら、設計者やデザイナー向けにタイルの使い方やコンセプトを提案し、INAXブランドのタイルの「いま」を紹介するWebサイトです。カタログ紙面で伝えきれない豊富な施工例やタイルの視覚的なイメージを、Webならではの表現手法を用いて、その魅力を伝えます。また、商品情報だけでなく、イベント情報・レポート、施工事例などを検索することも可能です。
https://www.lixil.co.jp/lineup/tile/designers_tile_lab/
■LIXILの水まわり・タイル事業100周年について
2024年、LIXILの水まわり・タイル国内事業は今年で100周年を迎えます。1924年にINAXの前身となる伊奈製陶を設立以来、新たな暮らしの価値を追求し続け、数々のイノベーションを創出してきました。
社会環境やニーズが大きく変化する今、そしてこれからの時代に向けて、これまで100年に渡り培ってきた革新的な技術と知見を礎に、お客さまの暮らしの中にある何気ない日々の幸せのために挑戦し続けていきます。
https://www.lixil.co.jp/lineup/s/water_tile_100th/