業界一の長寿命を誇るLIXILの浄水カートリッジ 天然素材の抗菌セラミックフィルターで広がる水の可能性

(写真左から) LWTJapan 水栓事業部のR&D担当 古賀一成、開発担当 城田奈々帆、製造担当 江上航輝
1990年代初めに、アスリートを育てる国立スポーツ科学センターのプール水を、災害時に飲用水にできないかという相談が持ち込まれました。 LIXILは、すでに実用化されている排ガス浄化フィルターの技術をベースに共同開発先と研究を進め、薬剤ではなくセラミックを活用した新方式のろ過装置を開発しました。これが、家庭用浄水栓カートリッジの起点となりました。プール水浄化フィルターから始まった設計技術を、小型高性能浄水カートリッジ開発へと進化させ、2001年にこれを水栓吐水口に搭載した「オールインワン浄水栓」を発売しました。さらに、2020年に、カートリッジの開発・研究・製造・評価までを一貫して行う施設「X-Water Fab とこなめ」が誕生しました。今回は特別に工場見学を体験しながら、他社製品にはない「LIXILの浄水カートリッジだけが持つ技術」と、LIXILが取り組む「水の価値を高める研究」について、担当者からお届けします。
独自の「細孔構造」と「造粒微粉炭」で、高い浄水能力と長寿命を実現
LIXILのオールインワン型の浄水カートリッジは、セラミックフィルターの芯材とそれを包むように配された活性炭と不織布で構成されています。セラミックに含まれる石灰石には抗菌力が備わっており、セラミックフィルターの細菌繁殖を抑制します。このセラミックは目に見えない無数の孔が開いた「細孔構造」で、水を3次元的に通過させます。浄水カートリッジにセラミックフィルターを使用しているのがLIXILの大きな特長で、すべての製品の研究開発・製造・組み立てを国内の自社工場で行っています。専門チームが全工程と品質を管理し、高いクオリティを追求しています。
(写真左)浄水カートリッジをコンパクトに内蔵したオールインワン浄水栓
(写真右)浄水カートリッジの構造材
セラミックフィルターの製造工程には原料調合→混練→押出成形→焼成という4つのステップがあります。セラミックの原料はすべて国内で産出される「ろう石、石灰石、蛙目(がえろめ)粘土」という3種の天然原料で、これらを粉砕して水と添加剤をブレンドします。原料や添加剤の投入量は厳密に管理され、LIXILの求める高い品質基準を満たす製品を製造しています。混練した原料を成形機の中に入れ、中の空気を抜いた絶対真空の状態でストロー状に成形します。生地内に空気が含まれていると、焼成した際に反りや割れの原因になってしまいます。成形工程を経て、厚みが均一なストロー状のセラミックフィルターになります。LIXILが長年培ってきたセラミック技術と、浄水カートリッジ製造のノウハウを駆使し、均一な厚みを実現しています。最後の焼成工程では1,230度以上で18時間程度をかけて、一度に約2万本のフィルターをゆっくりと焼き上げます。
LIXILは常滑(愛知県)の地で長年タイルを製造していますが、セラミックフィルターは細孔構造を実現するために、タイルとは異なる焼き方を採用しています。タイル製造では原料を高温で焼き続けることでガラス化させますが、セラミックフィルターをガラス化させてしまうと原料に空いている孔が塞がってしまいます。適切な乾燥時間、適切な温度での焼成、適切な冷却をすることでガラス化させずに、無数に孔の空いたセラミックフィルターを製造しています。
(写真)セラミックフィルター製造工程
完成したセラミックフィルターは差圧検査を行い、細孔構造の孔の数とサイズを調べ、規定の水の流量を保っているかをチェックします。セラミックフィルターは天然原料を使用しているため品質に差が出やすいので、差圧検査の結果をもとに窯の中の火の状況や、焼成する温度、時間を少しずつ変えながら日々製造を行っています。製造の過程では切り落とされたセラミックの断片が発生しますが、この断片は捨てることなく、粒状にしてビルトイン形カートリッジ内に再利用しています。セラミックフィルターは天然原料のため、臭い移りがなく、カルシウム由来の抗菌性を備えているのが特長です。
続いて、セラミックフィルターをベースにした、LIXILの浄水カートリッジの生産工程についてご紹介します。浄水カートリッジは、セラミックフィルター、活性炭、不織布で水道水をろ過しますが、その内、大部分のろ過を担うのが活性炭です。
LIXILが独自に生み出した「造粒微粉炭」は、一般的な活性炭が表面のみで有害物質を除去するのに対し、その内部でも有害物質を除去します。マイクロレベルに粉砕した活性炭を球状にして再結合させることで、吸着面積を飛躍的に拡大させることに成功しました。この構造によりカートリッジの寿命も延び、約半年間という業界一※1の長寿命を実現しています。
※1 スタンダードタイプ、エコノミータイプについて。活性炭フィルターを使用したスパウト内蔵形浄水栓用カートリッジにおいて。総ろ過水量のことを寿命と表しています。(出典:浄水器協会会員企業 各社のカタログ・HPによる。2021年7月現在 当社調べ)
(写真)浄水カートリッジ生産工程の様子
浄水カートリッジの生産工程では、最初に粒度の異なる複数の活性炭、水道に含まれる鉛を取り除く鉛除去剤、和紙由来の繊維を混ぜて、スラリーと呼ばれる黒い液体にします。ここに切断したセラミックフィルターを漬け込み、両端から水分だけを真空吸引し、活性炭を均一に着肉させます。セラミックフィルターの特長である細孔構造のおかげで、活性炭を短時間で着肉させることが可能です。その後、乾燥→研磨→不織布巻→キャップ装着→検査→梱包という工程を経て浄水カートリッジは出荷されます。
(写真)キャップ装着と検査の様子
高い浄水性能を追求した商品開発
オールインワン浄水栓の浄水カートリッジは、コンパクトで長寿命であること以外にも、3つの使用メリットがあります。まず、ペットボトルの飲料水に比べてコストパフォーマンスがとても優れていること。小さなカートリッジ1本で、2400リットルの浄水が作れるため、1リットル当たりの単価は約4円に抑えられます※2。そして、ウォーターサーバーと比較した場合、タンクの保管や設置場所が不要のため、キッチンが広々と使えること。最後は手間がかからないことです。ペットボトルやウォーターサーバーのように、水を買いに行ったりボトルを交換・廃棄する必要がないため、手間がかかりません。
LIXILがセラミック製のフィルターを開発・製造できる理由は、常滑の地で長年培ってきたタイルをはじめとする陶器製造のノウハウがあるからです。近年はLIXILの浄水カートリッジの模倣品や互換性を騙る非純正品が多数流通していますが、純正品と比較して浄水能力が大きく劣るだけでなく、LIXILの品質検査を経ていないため、安全性も保証されていません。
LIXILの浄水カートリッジは、浄水性能・製品本体の性能を十分に発揮するために、開発・研究を重ねています。セラミックフィルターの製造、活性炭のブレンド、そしてカートリッジの組み立てに至るまで、すべてを自社の手で製造しています。また、製造後には、水質などの評価、安全性や成分分析評価も実施。水の専門チームが一切の妥協を排して、すべての工程と品質を管理し、高いクオリティを追求しています。
※2 長寿命・スタンダードタイプ(JF-K11)の場合。1L当たりの単価は、 カートリッジ1本の定価/カートリッジ寿命で試算。上下水道料金(住宅向け)も含む。
(写真)浄水カートリッジの開発・研究 イメージ写真
水のおいしさや肌や髪への美容効果など、水の可能性を科学的に研究
R&D(研究開発チーム)では、科学的なエビデンスに基づき、浄水をはじめとする水の価値向上に向けた研究活動を推進しています。例えば、浄水器業界において先駆的に日本発の味覚センサーを導入し、水や調理品の味の違いを数値化することで、おいしさのメカニズム解明や製品の訴求に活用してきました。また、味だけでなく香りについても、におい嗅ぎGC-MSという機器を導入し、浄水を調理に使った際の成分を評価することで、浄水のおいしさへの効果を科学的に証明しました。
さらに、LIXILは住まいの設備機器や建材を扱うメーカーでありながら、美容領域にまで踏み込んだ研究にチャレンジし、浄水の肌や髪に対する効果を検証しています。これにより、肌のバリア機能の維持効果や、髪のキューティクル保持効果、ヘアカラーの退色抑制の効果などを明らかにしてきました。
これらの浄水の研究成果については、学会発表や論文投稿などを通じて継続的に発信し、最近では「LIXILのR&D(研究開発チーム)では、ここまで研究の領域を広げ精力的に活動しているんですね」、「毎回発表を聞いていて、研究の進展に驚きました」といった反響もいただき、注目度や存在感が高まっていることを実感しています。
(写真)水の価値を高める先端研究 イメージ写真
これまでは、浄水の有用性評価を中心に行ってきましたが、これからは、浄水研究で築いたネットワークも活用しながら、既存の枠にとらわれない、新しい水の価値を提供できる商品開発にもチャレンジしていきたいと考えています。
詳細については、LIXILの浄水栓ポータルサイトをご覧ください。
https://www.lixil.co.jp/lineup/faucet/water-purifier/
【LIXILのイノベーション】
LIXILでは、「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」というパーパス(存在意義)の実現に向け、常に新しいことにチャレンジしています。これまでの枠にとらわれない斬新な発想、そしてさまざまなバックグラウンドを持つ従業員の多様な視点や協業者とのコラボレーションから生まれる新たな価値-このようなことを大切にし、イノベーションを創発していくことで暮らしの未来を創造していきます。
LIXILは今後も、私たちの行動指針LIXIL Behaviorsの一つにある「実験し、学ぶ」企業文化を醸成し、“やってみよう”と仲間が背中を押してくれる環境を整えてまいります。
https://www.lixil.co.jp/corporate/innovation/