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    「トイレのオールジェンダー利用に関する研究会」による意識調査 結果報告/トランスジェンダーの性自認に沿ったトイレ利用、シスジェンダーの意識に変化/金沢大学、コマニー、LIXILの産学共同研究会が報告

    「トイレのオールジェンダー利用に関する研究会」による意識調査 結果報告/トランスジェンダーの性自認に沿ったトイレ利用、シスジェンダーの意識に変化/金沢大学、コマニー、LIXILの産学共同研究会が報告 サムネイル画像

     

    ※2023年8月8日一部改訂

    株式会社LIXILは、国立大学法人金沢大学、ならびにコマニー株式会社と共同で発足した「トイレのオールジェンダー利用に関する研究会」(以下、本研究会/座長:岩本健良 金沢大学人間社会研究域人文学系 准教授)にて、意識調査を実施しました。
    本研究会では、「トイレ利用は、人間の尊厳にもかかわる人権のひとつである」という認識のもと、「性自認注1に関わらず、利用しやすいトイレのあり方」を追求し、すべての人々のトイレ利用に関する人権が尊重される社会環境実現の一助となることをめざしています。
    2017年には、顔⾒知り同士が利用することで、課題がより深刻になりやすいオフィスのトイレに焦点を当て、「オフィストイレのオールジェンダー利用に関する調査」を実施し、結果を公開しました(2019年5月公開)。また、研究成果の一部を、『SDGsとトイレ(進化するトイレシリーズ)』(日本トイレ協会編、柏書房、2022年9月発行)に寄稿しました。
    5年後の2022年には、オフィスのトイレに加え、駅・ショッピングセンターなど不特定多数の人が利用する公共施設(以下、公共施設)のトイレについても調査を実施しました。
    本リリースでは、この調査結果の速報として、この5年間でのトランスジェンダー注2のトイレ利用に対するシスジェンダー注3の意識の変化、およびオフィスと公共施設でのトランスジェンダーのトイレ利用実態などについてご報告します。その他の調査結果等、詳細については秋ごろに公開予定です。

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    参考資料
    ■パブリックトイレに関するLIXILの取り組みについて
    パブリックトイレへのアクセシビリティは、社会参加の「障壁」となりうる大きな社会的テーマであり、「排泄」という人間の尊厳にも関わる人権問題でもあります。また、パブリックトイレの課題は、2030年までの達成を目指す世界共通の目標である持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)にもつながっています。
    LIXILは、インパクト戦略として、世界的な社会課題のうち緊急性が高く、またLIXILが事業を通じて大きなインパクトを生み出すことができる領域として「グローバルな衛生課題の解決」「水の保全と環境保護」「多様性の尊重」を優先取り組み分野として定めており、その活動を通じてSDGsに貢献しています。
     
    活動の1つとして、“誰もが安心して快適に利用できるパブリックトイレ”の普及を目指し、Webサイト「LIXILパブリックトイレラボ」を昨春にオープンしました。「LIXILパブリックトイレラボ」では、さまざまな人がいきいきと参加できる公正な社会の実現のために、外出先のトイレ環境のあるべき姿を考えます。
    ※「LIXILパブリックトイレラボ」Webサイト
    https://www.lixil.co.jp/ud/publictoiletlab/
     
    ■調査概要
    調査方法:インターネット調査
    調査実施時期:2022年11月18日~29日の計12日間
    調査対象者:ステップ1として、調査会社に登録しているモニターのうち、20~59歳の日本在住の有職者6万人を対象に事前調査を実施※1。就労状況、シスジェンダーのトランスジェンダーに対する意識などの実態把握を行った。さらにステップ2として、ステップ1の回答者から設定条件※2により抽出した1,325人(シスジェンダー計1,000人、トランスジェンダー計325人)に対し、トイレ利用に関する調査を行った。
     
    ※1.ステップ1の配信条件と回答者数
         ・WEB調査会社に登録している20~59歳のモニターへインターネット調査を実施。
         ・日本全国を8エリア(北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州)に分け、政府統計(「2022年1月
             住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」)に基づき、20~59歳を5歳刻みで区分。その構成比に
             沿って調査会社のモニターにアンケートを配信し、計60,000人 (シスジェンダー56,361人、トランスジェン
             ダー906人、ジェンダー判別不能2,733人)の回答を得た。ただし、20代の回答者数が少ないエリアについて
             は、他の年代の回答者で補完を行った。
         ・ステップ1におけるシスジェンダー回答者の内訳
            シスジェンダー男性:28,595人、シスジェンダー女性:27,766人の計56,361人
    ※2.ステップ1からステップ2への回答者抽出条件
          ・「職場」への出勤日数が、シスジェンダーは週2~3日以上、トランスジェンダーは週1日以上
          ・シスジェンダーのみ:就業するフロアの人数(他社等も含む)が30人以上
          ・ステップ2におけるシスジェンダーおよびトランスジェンダー回答者の内訳
             シスジェンダー:男性:500人、女性500人の計1,000人
             トランスジェンダー:FTM:50人、FTX:105人、MTX:83人、MTF:87人注4 の計325人 

    ■調査結果概要
    1.トランスジェンダーが性自認に沿ってトイレを利用することに対するシスジェンダーの意識
    1-1.「抵抗はない」と回答した人の割合(調査 ステップ1)
    トランスジェンダーが性自認に沿ってトイレを利用することについて、“どちらかといえば”も含めて「抵抗はない」と回答したシスジェンダーの割合は、56,361人のうち、オフィス、公共施設共に約7割でした。両施設を比較すると、オフィスは71.5%、公共施設は66.9%であり、オフィスの方が抵抗を感じない人がやや多い傾向が見られました。
    なお、男女別では、オフィスの場合は男性(28,595人)の73.3%、女性(27,766人)の69.7%が、公共施設の場合は男性(同)の71.4%、女性(同)の62.3%が “どちらかといえば” も含めて「抵抗はない」と回答しました。
    ※男女別の結果を追記しました(2023年8月8日)
     
    Q.トランスジェンダーの中には、性自認(心の性別)に沿った男女別トイレを利用したい人もます。
    上記を踏まえたうえでお聞きします。あなたが利用しているトイレと同じトイレを、トランスジェンダーの人が性自認
    (心の性別)に沿って利用することについて、どう思いますか? 
                                           図1.オフィスと公共施設の比較(2022)
     
     
    オフィスについては、“どちらかといえば”も含めて「抵抗はない」と回答した人の割合は、2017年の65.5%から2022年では6ポイント増加し、71.5%でした。特に、「抵抗はない」が11.9ポイント増加し、この5年で性自認に沿ったトイレ利用に対する意識の変化がみられます。
                       図2.2017年と2022年の比較(オフィス)
    1-2.「LGBT等性的マイノリティ」に関する研修等の受講経験の影響(調査 ステップ1)
    「LGBT等性的マイノリティ」に関する研修やセミナー等を受けたことのある人は、シスジェンダー回答者56,361人のうち12.8%に過ぎず、まだまだ少ない状況です。
     
     
    Q. あなたは、「LGBT等性的マイノリティ」に関する研修やセミナー等を受けたことがありますか?
                                図3.「LGBT等性的マイノリティ」に関する研修等の受講経験
     
     
    研修等の受講経験がある人は、ない人に比べて、トランスジェンダーが性自認に沿ってトイレを利用することに対して「抵抗はない」と回答した人の割合がオフィスの場合は4.6ポイント、公共施設の場合は5.1ポイント高い結果となりました。
    皆が安心して快適に利用できるトイレ環境の実現には、トランスジェンダーや性の多様性について正しく知ることも重要だと考えられます。
    ※公共施設の結果を追記しました(2023年8月8日)
     
    Q. あなたは、「LGBT等性的マイノリティ」に関する研修やセミナー等を受けたことがありますか?
    Q. あなたが利用しているトイレと同じトイレを、トランスジェンダーの人が性自認(心の性別)に沿って利用することについて、どう思いますか?
          図4.研修受講有無による、トランスジェンダーのトイレ利用に対するシスジェンダーの意識の違い(オフィス)
     
     
    2.トランスジェンダーのトイレ利用実態
    2-1.「利用しているトイレ」と「利用したいトイレ」(調査 ステップ2)
    オフィス、公共施設共に、トランスジェンダーが「利用しているトイレ」も「利用したいトイレ」もさまざまです。ステップ1の回答者から就業条件等で抽出したトランスジェンダー325人において、「利用したいトイレ」では、両施設共に5割強が男女別トイレ、4割強が性別を問わず利用できる「多機能トイレ」や「男女共用トイレ」と回答しました。
    前回の調査では、オフィスのトイレに「選択肢があること」の重要性を明らかにしましたが、今回の調査にて、公共トイレにおいても同様であることがわかりました。
    ※車椅子ユーザーを始め、さまざまな人が利用できるように配慮したトイレのことで、男女共用が一般的。
     
    ●オフィスのトイレ
    Q. あなたが、職場で「主に利用しているトイレ」と「利用したいトイレ」の種類をお知らせください。
                        図5.オフィスで主に利用しているトイレの種類       図6.オフィスで利用したいトイレの種類
           
    ※図中の色分けは、わかりやすくするための便宜上のものです。型にはめたり多様性を無視するといった意図はありません。
     
    ●公共施設のトイレ
    Q. あなたが、駅・ショッピングセンター等の公共施設で「主に利用しているトイレ」と「利用したいトイレ」の種類をお知らせください。
                        図7. 公共施設で主に利用しているトイレの種類        図8.公共施設で利用したいトイレの種類
     
    ※図中の色分けは、わかりやすくするための便宜上のものです。型にはめたり多様性を無視するといった意図はありません。
     
    2-2.「利用したいトイレ」が利用できていない状況(調査 ステップ2)
    オフィス、公共施設にて「利用しているトイレ」と、「利用したいトイレ」が不一致のトランスジェンダーは、325人のうちオフィスでは約4割、公共施設では約3割でした。シスジェンダーと比較して、オフィスでは37.6ポイント、公共施設では26.2ポイントも高い結果となりました。
    また、公共施設に比べてオフィスの方が「不一致」の割合が高く、不一致の理由として、オフィスの方が公共施設以上に「周囲の目」を気にするものが多くありました。顔見知り同士で利用するオフィスの方が、より課題が深刻であることが伺えます。その背景には、働きたい性別で働くことができていない状況があり、トイレの課題は、就労困難の要因のひとつとも指摘されています。トイレの整備とともに、トランスジェンダーが働きやすい環境を整えることが求められます。

    Q.あなたが、職場、および駅・ショッピングセンターなどの公共施設で「主に利用しているトイレ(実態)」と「利用したいトイレ(希望)」の種類をお知らせください。
    ※男性用トイレ、女性用トイレ、多機能トイレ、男女共用トイレ(多機能トイレ以外)、どれも使わない・我慢する



     
    ■研究会からのメッセージ
    トイレ利用は、⼈間の尊厳にも関わる⼈権のひとつでもあります。本研究は、研究会メンバー3者の知⾒を掛け合わせることで、「オールジェンダーに対してあるべきトイレ」を追求し、すべての⼈のトイレ利用に関する⼈権が尊重される社会環境実現の一助となることを目指しています。
    利用者一⼈ひとりの性⾃認やプライバシーが尊重され、尊厳が保障されること、そして、利用者の意思に沿う選択肢があること、それらを利用しやすい環境を整えることが重要です。また、オフィスのように特定の⼈が利用する場合は、利用者に寄り添った個別対応も求められます。
    そうした社会環境の実現には、設備などのハードを整備することはもちろん、啓発や教育により偏⾒をなくし、すべての⼈が正しい知識とダイバーシティ&インクルージョンの視点を持つことも⼤切です。
    ひとりでも多くの⼈が、トイレで悩むことがなくなるように願っております。
     
    ■研究会の概要
    ・名  称    :「トイレのオールジェンダー利用に関する研究会」
                    ※2017年8月に「オフィストイレのオールジェンダー利用に関する研究会」を発足。その後各種活動を共同で実施。第2回調査では、オフィスに限らず公共トイレ全般を対象に調査を実施するにあたり、2022年5月に名称を変更。
    ・参加メンバー    :金沢大学、コマニー、LIXIL
    ・座  長    :岩本 健良
    ・研究会の目的    :性自認(Gender Identity)に関わらず、誰もが「安心して、快適に利用できるトイレ環境」を明らかにすること。
    ※本研究会では、当調査の実施を受け、各種学会などにて調査結果を報告する予定です。
     
    ■座長プロフィール:
    岩本 健良 (いわもと たけよし) 金沢大学人間社会研究域人文学系 准教授
    関西学院大学社会学部卒業、北海道大学大学院文学研究科修了
    専門分野:ジェンダー学・教育社会学
    主な業績:『教育とLGBTIをつなぐ』(共著:青弓社)、『ダイバーシティ時代の教育の原理』(共著:学文社)、『セクシュアリティの人口学』(共著:原書房)など
    LGBT法連合会監事
     
    注)
    1. 性自認:自分の性別をどう認識しているか?という概念。
    2. トランスジェンダー:出生時に付けられた性別(出生時に判断され、割り当てられた性別。日本においては戸籍や住民票に記載され、女性または男性の二者択一)と性自認が一致しない人の総称。当研究会においては、WHOなど国際機関の報告書などを参考に、トランスジェンダーを「自身の性別を、出生時に付けられた性別とは異なるものとして認識している人」と定義し、調査分析を実施。
    3. シスジェンダー:出生時に付けられた性別と性自認が一致し、それに沿って生きる人。
    4. トランスジェンダーのあり方も多様であり本来単純な区分はできないが、分析の都合上、出生時に付けられた性別(この調査では、「出生時の戸籍性別」として尋ねた。)と性自認の組み合わせから構成される以下の4つに分類した。
    FTM=Female to Male(トランスジェンダー男性), FTX=Female to X-gender, 
    MTX=Male to X-gender, MTF=Male to Female(トランスジェンダー女性)
    ・出生時の戸籍性別:男性=Male、女性=Female
    ・性自認:男性=Male、女性=Female、Xジェンダー=X-gender※1
    ※1. Xジェンダーとは、出生時に付けられた性別にかかわらず、性自認が男性/女性に二分できない人、男女の枠にとらわれない性のあり方の人。性自認は中性や、男女どちらにも属さない無性、どちらにも属する両性など、さまざま。なお、Xジェンダーは日本独特の呼称であり、近年ではノンバイナリーということばが一般的になりつつある。今回の調査では、性自認を問う設問にて「Xジェンダー、中性、無性など」または「わからない、決めたくない、その他」を選んだ回答者を「Xジェンダー」として分類した。選択肢の「わからない、決めたくない、その他」は、本来「Questioning/クエスチョニング※2」や「Queer/クィア※3」に該当するが、今回はトイレに関する調査であり、性自認が男女二元論に当てはまらないという観点から、すべて「Xジェンダー」に含めた。
    ※2. クエスチョニングとは、自己のジェンダーや性的指向が決まってない人や模索している人を指す。
    ※3. クィアとは、元は「不思議な」「奇妙な」などを表す侮蔑的な言葉だが、1990年代以降性的マイノリティ全体を包摂する用語として肯定的に使用されている。
     

     

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